代表者挨拶

政策研究大学院大学・政策研究科・教授
園部 哲史(そのべ てつし)

新興国と一口に言っても、いろいろな定義がありますが、ここでは急速な経済成長を続け、国際経済と国際政治への影響力を強めている国のこととしましょう。ブラジル、ロシア、インド、中国からなるBRICsや、インドネシアも含めたBRIICSは明らかに新興国です。このほかにも新興国とみなせる国々はいくつもありますが、BRIICS6か国だけで、すでに世界のGDPの20%余りを占めるようになっています。また、かつて主要国首脳会議といえばG5やG7だったのが、今では多くの新興国が発言力を持つようになったことを反映してG20が当たり前になりました。新興国の著しい台頭によって、世界は否応なしに強い影響を受けるようになっています。

しかし、新興国が順風満帆というわけではありません。いずれの新興国も、急速に経済発展してきたがゆえに拡大する大都市と地方の経済格差や教育格差の克服、弱者を守るsocial safety netの構築、社会的・政治的利害の調整といった大きな政策課題に直面しています。その対処しだいでは、高所得国に仲間入りをする前に発展が止まってしまうという「中所得国の罠」に陥り、政治への不満が募る恐れがあります。新興国が不安定化すれば、世界に多大な影響が及びますから、世界全体として対応を考えておくべきです。そのためには、新興国の政治と経済のダイナミズムを、体系的に理解してことが重要ですが、これまで新興国の全体像を解明しようとするしっかりした研究はほとんど行われきませんでしたので、われわれの理解は断片的なものにとどまっています。

そこで、政治学、経済学、歴史学、地域研究が連携し、ミクロ、マクロ、グローバルな視点から新興国を包括的・徹底的に理解しようという本研究領域を提案することにしました。本領域は、実証分析、比較歴史分析、政治経済分析という3つのアプローチを、現場からのミクロな視点、国家レベルのマクロな視点、そしてグローバルな視点と組み合わせて研究することにより、新興国の体系的な理解の獲得を目指します。

具体的には、まず現場で何が起きているかを研究します。現場というのは企業がモノを作りサービスを提供する現場や、それを個人が消費し、彼らが政治家を選び、政治家が決めた政策を中央や地方の行政機関が実施する現場でのことです。本領域では、新興国の経済発展の鍵を握るインフラ整備、教育、技術導入の現場を訪れてデータを集め分析します。その際、利益誘導の政治、地域コミュニティーをはじめとする社会ネットワーク、そして行政能力のように、政策の効果に影響を及ぼすにもかかわらず、これまでの政策の実証分析は入っていなかった社会・政治的な要因にも着目して分析を行います。

本領域はまた、国際秩序の中で新興国がどのように国家形成と経済発展を果たすのか、そして新興国の発展が国際秩序のありようをいかに変えるのかをグローバルな視点から解明するための比較歴史分析も行い、異なる新興国同士の比較や、かつての新興国やこれからの新興国の間の比較に基づいた理論化を図ります。本領域ではさらに、社会が直面する問題に国家がどう対処するのか、その有効性を左右する要因は何かを、「国」というレベルで調べる政治経済分析も行います。このアプローチを、とくに中所得国の罠やsocial safety netの問題に適用します。このように本領域では3つのアプローチ・視点の相互作用を通じて、新興国研究を進めます。

期待される成果の第1は、重要テーマである新興国のトータルな理解を目指す研究を世界に先駆けて行い、新しい研究領域を形成することです。各班がレベルの高い研究を行ない、それに加えて、現場、国家と世界秩序という異なる層での現象の間の相互作用を解明することで、世界的に注目される大きな成果になると考えます。

第2に、研究の着眼点を共有することで、それぞれの分野の研究手法等に良い効果がもたらされるものと期待しています。また、ここで育つ若手研究者には、より幅広い分野融合的なマインドを身に着けてもらい、ゆくゆくは独創的な研究アプローチを開発してもらいたいと思います。

第3に、この研究はさまざまなケーススタディや国際比較や歴史比較の成果を踏まえて理論化を図りますので、その理論は背景の異なる新興国や、これから台頭する新興国予備軍にもある程度まで普遍的に通用するものになり、それらの国々の安定的な発展のための政策や、拡大する新興国市場が世界全体に利益をもたらすようにする経済政策、そしてわが国の外交政策の立案に寄与できると考えています。

本領域のメンバーは現時点で45名います。彼らはすでにそれぞれの専門分野で優れた実績を上げている研究者ばかりですが、この新興国の政治経済の研究という真の学際的研究プロジェクトに参画し分野間の知的交流の活性化させて、自分の殻を破ろうというに意欲を燃やしています。私はこれから5年間、こうしたチャレンジが豊かな果実を実らせるように、本領域の運営に邁進する所存です。何卒ご指導ご鞭撻よろしくお願い申し上げます。