アフリカで「緑の革命」を起こすには?‐タンザニア稲作の事例‐

アフリカで「緑の革命」を起こすには?

‐タンザニア稲作の事例‐

中野 優子(筑波大学)

長年にわたり停滞を続けてきたサブサハラ・アフリカ(以下アフリカと略記)の経済は、近年ようやく成長を開始した。しかし、アフリカがいまだに世界でもっとも貧困者比率の高い地域であることに疑いはなく、アフリカにおける持続的な経済成長および貧困削減は国際的に重要な課題である。人口の6-8割が農業に従事すると言われるアフリカの経済発展および貧困削減には、農業の発展が必要不可欠である。しかし、アフリカにおける穀物の単位面積当たりの収量は1960年から2013年の間に0.6トン/ヘクタールから1.5トン/ヘクタールに増加したにすぎない(FAO STAT, 2015)。人口が増大し、一人当たりの可耕地面積が減少する中で、貧困削減を達成するには、穀物の土地生産性を高める必要がある。
人口が増大し一人当たりの可耕地面積が急速に減少するという現象は、1960年代に熱帯アジアの諸国でも起こり、食糧危機が真剣に危ぶまれていた。しかし、熱帯アジア諸国は一人当たりの食糧生産を飛躍的に増大させることに成功した。なぜ、アジアではそれが可能になったのか、そしてなぜアフリカ諸国は食料増産と貧困削減に成功していないのか。本コラムでは、筆者がこれまで研究を行ってきたタンザニア稲作を事例として検証を行う。コメはアフリカでも近年消費が急増している作物である。消費量の拡大が生産量の増加に追いつかず、アジアからの輸入が急増している。従って、コメの生産性を高め、国際競争力を向上させることは、アフリカの食糧安全保障上からも重要な課題であると考えられる。
熱帯アジア諸国が1960年代の人口急増、一人当たり可耕地面積の減少を乗り越え、食糧の増産を達成したのは「緑の革命」による。アジアにおける「緑の革命」とは、国際稲研究所(International Rice Research Institute: IRRI)が開発した熱帯向けの高収量品種の普及とそれに伴う施肥量の増大により、稲の単位面積当たりの収量が飛躍的に上昇したことを指す (Hayami and Godo, 2005)。背が高く、施肥を行うと倒伏してしまう伝統品種に対して、高収量品種は背が低く、茎が太いため、施肥量を増やすことによって収量を高めることができる。このような新しい品種が開発され、普及したことによって、コメの土地単位面積当たりの収量が飛躍的に高まり、これまでよりも狭い土地で多くの食糧を生産することが可能になった。また、農業生産性の飛躍的な向上は、農家の所得を向上させ、農家は増えた所得で子弟に教育投資を行った。教育を受けた子どもたちの世代が非農業所得を獲得することでさらに高い所得を得られるようになり、これがアジアでの貧困削減の大きな原動力となった (Otsuka, Estudillo, and Sawada, 2009)。
それでは、アフリカ諸国はなぜ未だに農業生産性を向上させ、貧困を削減することに成功していないのだろうか?まず第1に、アフリカにおける灌漑比率の低さが制約の一つであると考えられる。例えばフィリピンの灌漑比率が70%近くになるのに対し、タンザニアの稲作地域の灌漑比率は20%程度に過ぎない。筆者が行ったタンザニアの主要コメ生産地域3州76カ村の760家計を対象とした調査の結果によれば、タンザニアの灌漑地域では、平均3.7トン/ヘクタールの収量を得ている。特に、収量が高い25%の農家だけを見れば、5.9トン/ヘクタール以上の収量を得ており、アジアの灌漑地域と比較しても遜色はない収量である。それに対して、天水田での収量は1.8トン/ヘクタールと非常に低い。安定した水の供給が見込めることで、近代品種、化学肥料、その他の技術を採用しやすいことが、灌漑地域での高収量の要因である (Nakano and Kajisa, 2013)。従って、灌漑比率を高めることが、稲作の生産性向上のための一つの方策であろう。ただし、灌漑投資を行い、灌漑面積比率を上げるにはそれなりに時間がかかる。また、灌漑には地理的条件が適している場所と不適切な場所があり、全ての地域で灌漑稲作が行えるわけではない。
そこで第2に挙げられるのが、天水地域での水管理技術の普及の重要性である。タンザニアを初めアフリカ諸国では、畦畔の設置、圃場の均平化、条植えといった基本的な稲作技術が普及していないことも調査から明らかになった。こういった技術は、圃場内に水を均等に行き渡らせ、稲が均等に生育するのに必須の技術であるが、タンザニアでは未だにこのような基礎的な技術が採用されていない。こういった生育環境では、アジアの「緑の革命」の核であった近代品種や施肥も十分な効果を発揮することができない。筆者がタンザニア、キロンベロ州で行った調査によれば、天水地域であっても、雨量に恵まれ、基礎的な技術(条植え、近代品種、化学肥料)が採用されれば、5トン/ヘクタールの収量を達成できることが明らかになった (Nakano et al., 2014)。また、このような技術の普及に農業研修が効果的であることも研究から明らかになってきた。しかし、現時点ではこのような技術の普及を行う普及員の活動も十分ではない。従って、技術普及のための農家研修への投資も重要であろう。
第3に、アジアの「緑の革命」が国際研究機関の品種開発によって達成されたことは、忘れてはならない。アフリカでも上述の国際稲研究所、Africa Riceを初めとする国際研究機関、および政府の研究機関が活動を行っている。特に、天水稲作は灌漑稲作よりも農業生態環境に大きく依存し、適切な技術は地域によって異なると考えられる。従って、適切な品種および技術の開発には、より多くの研究投資が必要となるだろう。このような研究活動への投資が行われ、新たな技術が開発されることなしには、生産性の向上はありえない。
以上、本コラムではタンザニア稲作の事例を通じて、アフリカにおける農業生産性向上のための方策について検討した。効果的な技術開発とその普及活動に適切な投資を行えるか否かが、今後のアフリカの農業生産性向上のための鍵と言えるだろう。

<参考文献>
FOA STAT. 2015. http://faostat.fao.org/
Hayami, Y. and Y. Godo. 2005. Development Economics: From the Poverty to the Wealth     of Nations. Oxford University Press.
Nakano,Y and K.Kajisa. 2013. The Determinants of Technology Adoption: The Case of the Rice     Sector in Tanzania. JICA-RI Working Paper, No.58.
Nakano, Y., Y. Tanaka, and K. Otsuka. 2014. To What Extent Do Improved Practices Increase     Productivity of Small-Scale Rice Cultivation in A Rain-fed Area?: Evidence from     Tanzania. GRIPS Working Paper, No.14-21.
Otsuka, K. J. Estudillo, and Y. Sawada. 2009. Rural Poverty and Income Dynamics in Asia and     Africa. Routledge.