世界経済史会議報告(5)

国際共同研究と国際会議

島田竜登(東京大学)

 

世界経済史会議が2015年8月に京都で開催されてから1年がたった。この世界経済史会議における4つのセッションで筆者は報告を行ったが、その後の活動も含めて、本コラムに記すことにしよう。まず、筆者が報告したセッションの概要とその後の展開は次の通りである。

1) 「Merchants, Migrants, and Slaves in the Development of a Pacific Ocean World」、組織者はRobert Hellyer米国ウェイク・フォレスト大学准教授と筆者である。19世紀における環太平洋経済の成立期における各地の経済・社会変化を検討することを目的とした。このセッション報告者の中心メンバーは、その後、2016年6月から7月にかけて、オーストラリアのパースにあるマードック大学で開催された7th International Congress of Maritime Historyで、再度セッションを組織し、現在、共同研究成果の論文のとりまとめ段階にある。

2) 「GIS Approaches to Land Development and Social Change in Asia and Africa」、組織者は水島司・東京大学教授。このセッションはアジア・アフリカの農村や都市社会の歴史研究にGIS(地理情報システム)を分析ツールとして用いることの意義を検討するものであり、水島教授が日本学術振興会から得た共同研究費でなされている国際共同研究の成果の一端を披露したものでもある。水島教授のこのプロジェクトを中心として、現在では国際学会(The Asian Network for GIS-based Historical Studies (ANGIS))が設立され、2016年12月にはマニラで第5回年次大会が開催される予定である。

3) 「Competitiveness, Cooperation and Confrontation: Merchants, Networks and States in Intra-Asian Trade, 1500-1800」、組織者はGerrit Knaap国立オランダ史研究所主任研究員(兼ウトレヒト大学教授)および筆者である。近世のアジア域内貿易の実態を議論することを目的とした。なお、この参加者のネットワークを通じて、2016年7月に、近世アジア砂糖の生産、流通、消費文化に関する国際ワークショップを筆者が東京大学で開催し、現在は共同研究成果論文集のとりまとめ段階にある。

4) 「The City and the World: Spatial and Temporal Connectivities in the Pre-Modern World」、組織者はRadhika Seshanプネー大学准教授およびRuby Maloniムンバイ大学教授である。このセッションは、インド洋世界を中心に東南アジアから西アジアにかけての海港都市の比較研究を目的とするものである。報告者たちを中心に第2回目の会合を、日本学術振興会とインド社会科学研究評議会の協定による二国間セミナーの枠組みで、2016年11月に東京大学で開催する予定であり、その後は英文論文集として国際共同研究の成果を刊行する計画である。

さて、これらのセッションについて、さらに詳しいことを書くときりがなかろう。むしろ、注目すべきことは、こうしたセッションは国際共同研究プロジェクトが背後にあることである。そこで、人文社会科学系における国際共同研究を支える国際会議について、若干の考察を加えてみることとしたい。

近年、様々な国際的な学術会議が開催されているが、おおよそ2つのタイプに分けることができるだろう。第一のタイプは、国際的な学術団体が主催する国際会議であり、この世界経済史会議もこちらに含まれる。たいていの場合、1週間ほどの期間で開催され、参加者も1,000人を超えることがしばしばある。極めて多数の分科会(セッション)が設置され、5から10の分科会が同時に進む。かつては研究者各人がそれぞれ個別報告の希望を申請し、分科会を会議組織委員会が作り上げることもあったが、最近では数名の報告者をあらかじめまとめた分科会ごとに公募を募ることが多くなった。なお、1つの分科会の時間は2時間から4時間程度が普通である。参加者は、このように時間の短い分科会の1つで報告を行うというのが、通常の在り方であり、筆者のように複数の分科会で報告することは禁じられていることもある。もちろん、参加者は1つの分科会に参加するだけでなく、残りの時間は他の分科会にオーディエンスとして参加することになる。分科会のオーガナイザーの立場からすれば、自分の分科会の持ち時間は少ないものの、報告者以外の多数のオーディエンスが自己負担で海外から足を運び、疑問を投げかけたり、有意義なコメントを与えてくれたりすることを期待できる。場合によっては、自分のプロジェクトに新たなメンバーを直接リクルートできる機会ともなるのである。

もう一つのタイプの国際会議はワークショップ型のものであり、大型研究費を持つプロジェクトが自らの資金で開催することが多い。通常は2、3日間の開催で、報告者一人当たりの持ち時間も1時間くらいあることも多い。どちらかといえば、非公開ないしはプロジェクト等の関係者に参加を限定することが多い。要するに、合宿のごとく密度の濃い議論をメンバー内で行うことが目的なのである。国際的な共同研究である以上、個々の研究者のバックグラウンド、すなわち専門とする地域やディスプリンが異なることは当然である。それゆえに、メンバー間で腹を割った討論と共同研究の方向性のすり合わせが必要となるのである。いかに腹を割った議論ができるか否かで、国際共同研究の成果の出来具合が異なってくるであろう。個別論文をあつめて1冊の研究論文集を出版しようとする場合は、論文集の首尾一貫性は、この第二のタイプの国際会議のあり方に大きくかかわってくる。下手をすれば、方向性のそろわない、論文を単にくっつけただけの論文集となってしまうからである。

国際共同研究というものは、お金のかかるものである。いずれのタイプの国際会議にせよ、参加者一人当たりの参加コストは多額になる。もちろん、会議を前後して、電子メイルやインターネット電話を通じて様々なコミュニケーションが図られる。また、インターネットで世界数か所の拠点を結んで、音声と動画で会議を行うことも可能となり、実際に利用することも増えてきた。しかし、それにもかかわらず、メンバーが直接、一つの場に集まり、議論するということの意義は大きい。このプロセスなしでは、多様なバックグラウンドをもつ研究者メンバーたちの持てる力を集結し、一人の研究者が独自に行うレベルをはるかに超えた成果を生み出すことは不可能なのである。主に税金を原資とする研究費を利用する以上、2つのタイプの国際会議を上手に組み合わせることで、国際共同研究ならではの多様な英知を結集した優れた成果を必ずや生み出さねばならぬことを肝に銘じなければならないであろう。

以上