企業と政治家とのつながりが排外主義と経済停滞の悪循環を引き起こす

企業と政治家とのつながりが排外主義と経済停滞の悪循環を引き起こす

 

戸堂康之(早稲田大学)

 

社会ネットワークに関する実証研究の発展によって、どのようなネットワーク構造が経済成長を促進するかについての研究が進んでいる。多くの研究は、仲間内の強い絆だけではなく、「よそ者」との弱いつながりを含む多様なネットワークを持っていることが、個人や企業の業績につながることを示している。これは、強い絆でつながる仲間よりも、「よそ者」の方が新しい知識や情報をもたらしてくれるからだ(Burt, 1992; Granovetter, 1973)。例えば、貿易や海外直接投資によって海外の「よそ者」とつながることで、国内にはない知恵を導入することができ、生産性が向上することは多くの研究で示されている(Atkin et al., 2016)。グローバルな共同研究ネットワークにおいても、共同研究相手同士もつながっているような密なネットワークよりも、複数の研究グループとつながるような多様なネットワークも持つ企業がより多くの特許を生み出していることがわかっている(飯野 et al., 2017)。

しかし、このような多様なネットワークの構築は必ずしも容易ではない。「類は友を呼ぶ」というように、もともと人間には同じような性質を持った人とつながりたがる傾向があるためだ(Hoshino et al., 2017)。さらに、そのような同質的な集団が政治的な力を持ち、排外主義に走ってしまい、むしろ「よそ者」を排除してしまうこともある。現在起きているイギリスのEU離脱やアメリカのTPP離脱などの「アメリカ・ファースト」政策、フランスなどのヨーロッパ諸国における極右政党の台頭などはその一例だ。新興国においても、経済の発展に伴って、このような排外主義が台頭することがある。新興国であった戦前の日本がブロック経済化を進めたことや、1950年代のラテンアメリカで輸入代替工業化(輸入を規制して国内産業を育成しようとする政策)が台頭したのは、その好例である。

しかし、このような排外主義は多様なネットワークの構築を阻み、経済を停滞させる。さらに、経済が停滞すると、国内政治家はその原因を外国企業やグローバル化に求めることが多く、ますます排外的になっていく。このような排外主義と経済停滞の悪循環が、新興国における経済停滞、すなわち「中所得国の罠」の一因となりうる。

このような仮説を検証するため、著者らはインドネシアで約300社の企業を対象に、企業の業績や政治家とのつながり、経営者の意識などを調査した。その結果、政府から許認可を得やすい企業は海外との取引が少なく、外国人に対する経営者の信頼感が低い傾向にあることがわかった。さらに、海外との取引が少なく、外国人に対する信頼感が低い経営者は、自由貿易協定や外資企業に対する反感が強い傾向にあった。

この結果は、図で示されたように、企業と政治とのつながりが国内企業の保護主義を強め、実際に保護主義的な政策が実行されることでますます利権が増大し、企業にとって政治的なつながりがより重要になっていくことを示唆している。つまり、排外主義と経済停滞の悪循環が存在し、利権を伴う企業と政治とのつながりがそのきっかけとなりうるのだ。他の東南アジア諸国にくらべても汚職が激しいと言われるインドネシア(OECD, 2012)では、外資規制や貿易などの面で保護主義的な政策が強化されつつあり、実際にこのような悪循環に陥っている可能性がある。

もし、同じようなことが新興国だけではなく、先進国でも起こりうるのであれば、このような悪循環が世界経済全体のグローバル化と成長を阻むことにもなる。前述のように、欧米で排外主義の兆候が顕著にみられ始めているが、実は最近の10年間の中期的なスパンで、グローバル化の停滞・後退と経済成長の鈍化が同時に起きており、すでにそのような悪循環が始まっているのかもしれない。

このような悪循環を止めるためには、新興国、先進国を問わず、政府は貿易や投資を規制せずに、グローバル経済の中で多様なネットワークの構築を促す必要がある(ただし、同時にグローバル化の恩恵を多くの人々が享受できるような包摂的な政策を行うことも必要だ)。さらに、このような悪循環のきっかけとなる企業と政治とのつながりをなくすため、各方面で規制緩和を行い、そのようなつながりが腐敗を生むことのないようにしなければならない。戦前の世界経済のブロック化が第2次世界大戦に行きついたように、このような悪循環は破滅的な結末をもたらす可能性がある。各国はそれを肝に銘じて排外主義を修正していく必要があろう。

 

 

 

参考文献

Atkin, D., Khandelwal, A.K., and Osman, A., 2016. Exporting and firm performance: Evidence from a randomized trial. Quarterly Journal of Economics, forthcoming.

Burt, R.S., 1992. Structural holes: The social structure of competition. Harvard University Press, Cambridge.

Granovetter, M.S., 1973. The strength of weak ties. American Journal of Sociology 78, 1360-1380.

Hoshino, T., Shimamoto, D., and Todo, Y., 2017. Accounting for heterogeneity in network formation behavior: An application to vietnamese smes. RIETI Discussion Paper, No. 17-E-023.

OECD, 2012. Oecd economic surveys: Indonesia 2012. OECD Publishing, Paris.

飯野隆史, 井上寛康, 齊藤有希子, 戸堂康之, 2017. 企業間の共同研究ネットワークはイノベーションの質的パフォーマンスを向上させるか?-世界の大規模データによる国際比較-. RIETI Discussion Paper, No. 17-J-034, 経済産業研究所.

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