新興国入りを目指すアフリカの開発戦略

新興国入りを目指すアフリカの開発戦略

大塚啓二郎(GRIPS)

 

アフリカの国々の経済発展をいかに支援するか?日本は1993年からアフリカ支援のために3年ごとにTICAD(アフリカ開発会議)を開催し、各国首脳を日本に招いて議論を重ねてきた。それを見て、中国が類似の会議を開催するようになってきた。これまでアフリカ支援に熱心に取組んできた日本は、他の国とは「違う」ことを世界に示すべきである。その一環として2016年夏の第6回TICAD会議を、ナイロビで開催することになった。また来春には伊勢志摩サミットがあるが、そこでもアフリカ開発はテロ問題とともに議題にあがるであろう。

日本の強みは、アジアの経済発展を支援し、低所得国を次々に新興国に押し上げてきた実績である。しかしその経験の中味は何だったのであろうか。またそれはアフリカにも適用可能であろうか。

これまでの研究から、アジアの国々が新興国へと脱皮していった主要な条件は3つあることがわかってきた。第一は、先進国からの積極的な「模倣」である。日本人であれば、幕末・明治期以来日本が欧米の技術や制度を懸命に模倣し、先進国の仲間入りを果たしたことを身に染みて理解しているであろう。中国経済が1978年の改革開始以来、年率10%という高率で発展したのは、日本をはじめとする近隣諸国や欧米諸国から積極的に「模倣」したからである。それより一昔前にスタートした台湾や韓国の発展もしかりであった。農業についても、高収量品種の開発と普及を軸とした稲作部門の発展、いわゆるアジアの緑の革命は、温帯に位置する日本の稲作技術を科学の力を持って熱帯アジアに移転したものに他ならない。これもまた模倣の一部である。

「模倣」というと、たやすいことのように思われがちだが、模倣は決して容易ではない。すぐれた技術者も熟練工もほとんどおらず、高級な部品もほとんど手に入らない状況の中で、中国の企業がホンダのオートバイの模造品を生産するのは簡単ではなかったはずである。だから「模倣力」のあることが模倣の成否を握っている。それには、一般には教育のある産業人材が必要である。アジアの国々の一人当たりGDPと平均教育年数を図にプロットしてみると、驚くほど相関が強いことがわかる。ちなみに最近の日本経済のGDPの増加率が鈍いことと、教育年数が伸び悩んでいることとは大いに関係している。日本の教育は、明らかにシンガポールに見劣りしているし、その結果、シンガポールの1人当たり所得に比べて日本のそれは4分の3に過ぎなくなってしまった。

第3に大切なことは、決して無理をせず、単純な産業の発展からはじめて、徐々に産業を高度化していくことである。世界の最貧国であったバングラデッシュが、非熟練労働集約的なアパレル産業の育成から経済発展を開始し、経済成長の軌道に乗ったことは象徴的である。中国が、単純な産業の発展から高度成長を開始したのも偶然ではない。明治期の日本が、骨の折れる織物業や製糸業の発展を重視したのも、正しい選択であった。軽工業の発展に成功すれば、重工業に軸足を移し、やがて知識集約的産業を育成させればいい。この段階を無視して経済発展に成功した国はない。

模倣、人材育成、適正な産業構造の転換が東アジア型の発展の秘訣であるとすれば、それはまたアフリカの発展の骨子になることは間違いない。なぜならば、これらは余りにも当たり前で批判の余地がないからである。またこうした考え方が正しいことは、これまでの研究から明らかになってきた。アジアの新興国の経験から見れば、アフリカが経済発展に後れを取った大きな原因は、政治や社会の不安定感が外国技術の導入や人材育成に落ち着いて取り組む意欲を削ぎ、優れた人材が海外に流出するという傾向があったからであろう。しかし今や海外から技術や経営のノウハウを積極的に学び、産業人材の育成を急ぎ、地道に軽工業を育成する政策を展開する機運が芽生え始めている。政治家や官僚のODAに対する意識も変わり、今や経済発展のために真に効果的な支援を真剣に求めるようになっている。

日本政府は、第6回のTICAD 会議において、産業人材育成重視を最大の公約に掲げるべきである。ここで言う人材とは、稲をしっかり育てることができる農民であり、そうした農民を教育できる普及員であり、収穫されたコメや野菜をマーケットで売りさばくことのできる商人であり、アパレル製品や革靴などの簡単な製品を輸出できるような企業家である。アフリカの稲作農民や農業普及員にはアジアのコメ作りの良さを学んで欲しいし、農産物の商人には安全で質の高い野菜や果樹をアジアではいかにして消費者に届けているかを学んで欲しいと思うし、企業家にはアジアでは一般的なKAIZENマネージメント(例えば整理整頓やQCサークル)の重要性を学んで欲しい。これができたら、アフリカ経済は間違いなく離陸を開始するであろう。

実はこれらは、コメの開発に関するCARD、野菜等の換金作物の開発や市場開拓を目指すSHEP、工場、オフィス、病院など職場の生産性と安全性を高めるKAIZENプロジェクトとして、JICAがアフリカで展開中の有望なプロジェクトである。しかしながら、その規模は持続的成長への離陸に到達するにはあまりにも小さく改善すべき点も多い。

離陸に成功すれば、インフラ投資が重要になるであろう。天水田では効率が悪いので灌漑が必要になるし、肥料の使用量が増えれば肥料の値段が安く農産物の値段が高くなるように交通インフラが必要になってくる。効率性が向上した企業は、インフラが整備された工業区で事業の拡張を望むようになる。大事なことは、人材育成ができていればインフラ投資が生きてくるということである。インフラ投資があれば、ほぼ自動的に産業が育成されるわけではない。

アジア的技術や経営やマーケティングの知識を学んだ人材が育ってくれば、アジアの民間企業によるアフリカへの直接投資が現実味を帯びてくる。そうなれば、商社も食指を伸ばしてくるであろうし、アフリカの新興国入りが射程距離に入ってくるであろう。もし第6回TICAD 会議 が、このようなダイナミックなアフリカの発展のきっかけとなれば、日本の国際的プレゼンスは大いに高まるであろう。そのためには何が重要な支援か、どのような支援のシークエンスが重要なのか、しっかりと認識することが何よりも重要である。