日本のODAは新興国に評価されているか

日本のODAは新興国に評価されているか

戸堂康之(早稲田大学政治経済学術院)

 

日本のODAに対する被援助国の評価

前回のコラムで、日本のODAのインパクト評価(ランダム化比較試験[RCT]や統計学的分析に基づく定量的評価)が十分になされておらず、そのために日本国民から十分に評価されていないことを指摘した。では、被援助国の政府や国民は日本のODAをどのように評価しているのだろうか。

日本政府は、被援助国、特に東南アジアの国民は日本のODAを評価するがゆえに対日感情が非常に良好であると考えている。例えば、外務省がASEAN7か国で行った調査では、インドネシア人の47%が最も信頼できる国として日本を挙げたのに対し、米国、中国を挙げた人はそれぞれ14%、5%で、日本に対する好感度が際立っている。日本のODAが自国の発展に役立ったと答えたインドネシア人は92%にも上る。

しかし、この調査はインターネットで行われており、回答者が日本にもともと好感を持っている人に偏っている可能性がある。その証拠に、この調査の回答者の18%は日本語の学習経験があるが、国際交流基金の調査では日本語学習者はインドネシア人全体の約0.3%にしかすぎない。

外務省の調査以外では、日本に対する好感度はこれほど強くない。筆者自身が2014年にインドネシア全土の企業を無作為に抽出して行った調査では、各企業の経営者もしくは管理職に日本および中国に対する信頼度を4段階で聞いたところ、両者の平均はほとんど同じだった(図)。

ピュー研究所という米シンクタンクによる2015年の調査によると、日本人、中国人に対して強くまたはほどほどの好感を持つインドネシア人の割合はそれぞれ71%、63%だった。インドネシアは日本にとって累計では最大のODA受取国であるにもかかわらず、日本に対する好感度は中国とくらべてさほどの差はないのである。

先日、インドネシアの高速鉄道プロジェクトの受注競争で日本は中国に負けてしまった。その要因の1つは、インドネシア政府が求めていた財政負担や債務保証を伴わない形での事業実施が、日本のODAの枠組みでは不可能であったことだ。とはいえ、これまでの日本のODAに対する評価が高ければ、インドネシア政府の決定も違ったものになっていたはずだ。

さらには、以前は主要なODA受取国であった中国や韓国において、日本の好感度が著しく低いことははっきりしている。ピュー研究所の調査では、中国人の9%、韓国人の21%しか、日本人に対して強いまたはほどほどの好感を持っていない。

これらの結果をふまえれば、日本のODAが被援助国から高く評価されていて、日本に対する被援助国国民の信頼感の向上に貢献してきたという外務省の見解は、残念ながら過大評価だと考えざるを得ない。ましてや、その信頼関係を武器にすれば日本が途上国・新興国でインフラ事業を獲得することはそう難しくはないと考えるのは、楽観的すぎると言っていいだろう。

被援助国に評価されるODAのために

とは言え、前回のコラムで紹介したように、日本のODAは十分な成果を上げている。しかし、その評価と広報が十分でないために、その成果が被援助国民に十分に伝わっていないのだ。だから、やはりここでもODA事業の評価と被援助国向けの広報の拡充を提案したい。

前回のコラムでは、データを使って定量的な効果を統計学的な手法で推計するインパクト評価の重要性を強調した。ただし、インパクト評価は万能ではない。特に、現在新興国向けとして脚光を浴びているインフラ事業は定量的にその効果を推計することが難しい。その上、事業に伴って日本の技術が途上国に移転されるなど副次的な効果があることが、さらに評価を難しくしている。

例えば、インドネシアでは初めての地下鉄工事が現在JICA事業として行われているが、日本の施工会社はインドネシア人技術者を外国の現場に送って最新の技術を学ばせている。だから、この事業によってインドネシアで地下鉄建設技術が育っていくことは十分に考えられる。同じようなことは、戦後の日本における世界銀行によるインフラ援助でも起きた。例えば、愛知用水はロックフィルダムの普及に、名神高速はクロソイド曲線や透視図法の普及に大きく貢献したことが、東京大学の中山幹康教授の事例研究で明らかとなっている。

こういったインフラ事業に伴う技術移転についても、事例を使った定性的な評価を活用することで説得力のある評価をして、それを被援助国に丁寧に説明することが望まれる。特に、ODAよりも民間資金の流入の方が多い新興国がODAに求めるものは、資金というよりも技術だ。だから、インフラ事業においても、質の高さをアピールするよりも、これまでの実績を元に技術が移転されることを強調する方が、新興国政府に評価されるはずだ。しかも、そうすることで日本企業のインフラ事業の受注を増やせるのだから、日本にとってもメリットが大きいのだ。

このように、多様な手法を用いた効果的な評価と広報によって、被援助国にその貢献を高く評価され、日本企業にとっても利益となるwin-winのODAが発展していくことを期待したい。

図.インドネシアにおける企業経営者の日本人・中国人に対する信頼感

 

出所:筆者が2014年に約300社に対して行った企業調査。