日本のODAは途上国の役に立っているか

日本のODAは途上国の役に立っているか

戸堂康之(早稲田大学政治経済学術院)

 

ODAプロジェクトの新しい評価手法~インパクト評価

日本のODAプロジェクトは、実際に途上国の人々の生活の向上や社会の発展に役に立っているのか?個々のODA事業(プロジェクト)は、事後評価を必ず行っている。その結果をまとめたJICAの『事業評価年次報告書2014』によると、2009~2013年度に行われた事業のうち41%の総合評価はA(非常に高い)、40%はB(高い)となっている。しかし、41%がA評価と言われても、本当にその事業が途上国の役に立ったのか、必ずしもピンとこない。

だから、世界の援助の現場では、プロジェクトの効果をデータを利用して数値で測ろうとする試みが、今世紀に入ってから急速に進んでいる。しかし、このような定量的評価は必ずしも簡単ではない。プロジェクトの効果と、それ以外の外部要因やプロジェクトの参加者と非参加者との潜在的な能力や意欲の差とを区別するのは難しいからだ。

例えば、プロジェクト前後で参加者の成果指標(例えば、就学率など)が向上したとしても、それがプロジェクトの効果によるものなのか、外部要因によるものなのかを区別することはできない。また、参加者と非参加者とをくらべるだけでは、プロジェクトの効果と両者のもともとの能力差を切り分けられない。

だから、プロジェクトの効果を正確に測るためには、参加者と同じ潜在的能力をもった非参加者と参加者とをくらべることが必要だ。その1つのやり方は、医薬品の効果を測るためのRCT(ランダム化比較試験)と呼ばれる方法である。ランダムにプロジェクト参加者と非参加者をわけることで、外部要因や参加者と非参加者のもともとの違いを排除してプロジェクトの効果を正確に測ることができる。援助プロジェクトのRCTによる定量的評価は、マサチューセッツ工科大学(MIT)のアビジット・バナジーやエスター・デュフロらが創設したジャミール・ポバティ・アクション・ラボ(Jameel Poverty Action Lab、J-PAL)が主導して、1990年代後半から急激に実施が進んでいる。

RCT以外にも、マッチングなどの統計学的な手法を用いて、参加者と同じような非参加者を事後的に選び出し、プロジェクトの効果をできる限り正確に測る試みも多くなされている。政治的、倫理的な問題からRCTを行うのが難しい場合には、この方法が有効だ。これらの新しい手法による評価は、プロジェクトの効果と外部要因や潜在能力の差を十分に区別できていない従来の評価と区別して、「インパクト評価」と呼ばれる。

日本のODAのインパクト評価

日本のODAプロジェクトに対するRCTによるインパクト評価は、2010年以降にいくつか行われている。その1つは、JICAが西アフリカのブルキナファソで行っている、「みんなの学校プロジェクト」と呼ばれる教育プロジェクトである。これは、児童の親だけではなく地域住民が主体となって教室やトイレの整備、給食や補習の実施など様々なことを決めることで、教育の質を高めていこうとするものだ。東京大学の澤田康幸教授や筆者らの分析によって、「みんなの学校」ではそれ以外の学校にくらべて児童の出席率が上がり、児童の退学率や教員の欠勤率が下がったことがわかった。その上、児童の親が社会や地域に対して持つ信頼感も向上した[1]

筆者はそれ以外にも、インドネシアにおける技術援助に対して、現地企業のデータを基にしたインパクト評価を行っている[2]。JICAは2000年代前半に日本人専門家を派遣して、現地企業や現地公的機関の技術者に技術指導を行うプロジェクトを実施した。そのプロジェクトによって、企業の不良品率の変化率が平均で15%も低下したことがわかった(図)。これは、平均的な企業の6年分の技術進歩に相当する。

ただし、インパクト評価によってわかるのはプラス面ばかりではない。JICAの専門家から技術を学んだ現地公的機関の技術者が現地企業に対して行った技術指導には効果がなかった。だから、インパクト評価によって、プロジェクトの欠点をあぶり出し、今後のプロジェクトに対する教訓を得ることもできる。

また、エチオピアでJICAが行った森林管理プロジェクトが森林保全に効果があったことも、早稲田大学の高橋遼助教と筆者の研究によって示されている[3]。衛星から撮影した画像によると、プロジェクト地域では1985年から2009年までに森林面積が年率で3.3%減少しているが、住民参加型の森林管理組合を作って森林を監視したことで森林の変化率は年率1.5%の増加に転じていた。さらに、森林に自生する森林コーヒーの公的な認証を取得することで森林保全が進み、農民学校での技術指導によって農民の収入が増えた。

さらに、筆者は国単位のマクロデータを用いたODAの分析も行っているが、日本のODAが呼び水となって日本からの海外直接投資が増えることがわかっている[4]。先進国が途上国に投資すると、それに伴って先進国の技術が途上国に伝わって経済を成長させることはよく知られている。だから、日本のODAは日本の直接投資を呼び込むことで間接的に途上国、特にアジア諸国の経済成長に貢献したと結論づけられる。

日本のODAに対する国民の評価

このように、データ分析に基づく筆者の研究は、いずれもが日本のODAが被援助国の経済的・社会的発展に効果があったことを示している。しかし、残念ながらODAに対する日本国民の評価は必ずしも高くない。内閣府の調査によると、2000年代前半にはODAをなるべく少なくすべきという国民が25%を超えていた。そのような世論に押されて、ODA予算は1997年の1兆1700億円をピークに2015年には5400億円と半分以下になった。現在では「なるべく少なく」派は10%程度に下がったが、現状維持派が半数を占めていて、国民は依然としてODAに対して厳しい目を向けている。

その1つの原因は、日本のODAの評価とその広報活動が十分でないことだ。特に、RCTや統計学的分析によるインパクト評価はまれにしか行われていない。例えば、3ieというインパクト評価に関する国際団体の調査によると、全世界ですでに2700件以上のインパクト評価が行われて、その結果が公開されている。しかし、その中で日本のODAに関するものは3件しかない。実際には3ieの調査から漏れているものもあり、JICAがこれまで行ったインパクト評価は10件ある。しかし、JICAが年間100件程度の事後評価を行っていることを考えると、インパクト評価が世界的に行われるようになったこの10年間に行われた約1000件のうち、約1%の事業しかインパクト評価が行われていないことになる。

国民に支持されるODAのために

むろん、インパクト評価の実施にはそれなりの手間と費用がかかるので、全てのプロジェクトにおいてインパクト評価を行うことは困難だ。しかし、例えばアメリカの援助機関USAIDの方針にならって、これまでその効果が検証されていないような新しいタイプのODAプロジェクトでは原則として定量的評価をするように義務づけるくらいのことはするべきだ。

だから、日本政府には、ODAのインパクト評価やインフラ事業の幅広の評価を質量ともに十分に実施することを望みたい。さらに、相応の労力をかけてその結果を日本国民に対して説明していくことも必要だ。このような活動を通じて日本のODAに対する国民の理解が進むとともに、事業の改善もなされ、日本のODAが途上国の経済発展にますます貢献することを願ってやまない。

ただし、さらに問題なのは日本のODAの効果が日本国民ばかりか被援助国政府や国民に十分に伝わっていないことである。この点については、次回のコラムで議論したい。

図.インドネシア鋳造産業における日本のODAの定量的効果


[1] Kozuka E., Sawada Y., and Todo Y. (2016). How Can Community Participation Improve Educational Outcomes? Evidence from a SBM Project in Burkina Faso, forthcoming in JICA Research Institute Working Paper Series.

Todo, Y., Kozuka, E., and Sawada, Y. (2016). “Can School-Based Management Promote Informal Financing in Rural Communities in Less Developed Countries? Evidence from Burkina Faso,” forthcoming in JICA Research Institute Working Paper Series.

[2] Todo Y. (2011). Impacts of Aid-Funded Technical Assistance Programs: Firm-Level Evidence from the Indonesian Foundry Industry. World Development. 39 (3), 351-62.

[3] Takahashi R. and Todo Y. (2012). Impact of community-based forest management on forest protection: evidence from an aid-funded project in Ethiopia. Environmental management. 50 (3), 396-404.

Todo Y. and Takahashi R. (2013). Impact Of Farmer Field Schools On Agricultural Income And Skills: Evidence From An Aid‐Funded Project In Rural Ethiopia. Journal of International Development. 25 (3), 362-81.

Takahashi R. and Todo Y. (2014). The impact of a shade coffee certification program on forest conservation using remote sensing and household data. Environmental Impact Assessment Review. 44, 76-81.

Takahashi R. and Todo Y. (2013). The impact of a shade coffee certification program on forest conservation: A case study from a wild coffee forest in Ethiopia. Journal of Environmental Management. 130, 48-54.

[4] Kimura H. and Todo Y. (2009). Is Foreign Aid a Vanguard of Foreign Direct Investment? A Gravity-Equation Approach. World Development. 38 (4), 482-97.