販売リスクと国際標準の順守:グローバルな高付加価値農水産物市場が 途上国の生産者に提示する課題

販売リスクと国際標準の順守:グローバルな高付加価値農水産物市場が

途上国の生産者に提示する課題

 

鈴木綾(東京大学)

 

野菜や花卉、果物、エビ、サケなどの高付加価値農水産物セクターは、発展途上国が経済発展の初期段階で注目する産業の一つであろう。これらの産業で必要とされる資本や技術は製造業よりも低いため、小規模農家が生産者として参画できる余地があり、貧困削減につながるケースも多い。実際、このような輸出志向の産業は発展途上国に収入をもたらすだけでなく、高度な技術や品質、よりよい労働環境などをもたらすことを示した先行研究は多く存在する。

一方で、グローバル市場は、途上国の国内市場とは異なる特徴が多くあるのも事実である。例えば、急な価格の変動、激しい競争、貿易に関する政策や規制の突然の変更、消費者側のトレンドの変化などがある。これらを克服しなくては、グローバル市場に持続的に作物を供給することは難しい。

そこで本稿では、これらのグローバル市場の特徴の中でも、販売リスクと国際標準の順守という二つの課題に焦点を当て、途上国の生産者がこれらにどのように対応しているのか、どのような影響を受けているのかを明らかにすることを目的とする。具体例として、ガーナとタイの輸出パイナップル産業と、ベトナムとタイの輸出エビ養殖産業を取り上げる。

 

販売リスク:

途上国で輸出市場向けに作られる作物は、大概、国内の需要が少ない。そのため生産者は、輸出業者に作物を売れなかった場合は、その作物が売れ残るというリスクを背負うことになる。また、グローバル市場の消費者の趣向は急に変化することも少なくない。これは、消費者側からの変化もあるが、多国籍企業など、供給側の販売戦略によることもある。

ガーナの輸出パイナップル産業はその典型である。ガーナでは、青果をEU市場に輸出するパイナップル産業が1980年代以降、成長を遂げてきた。パイナップルの生産は、零細農家及び大規模農園を保有する輸出業者が担っているが、その割合は前者が約30%となっている。零細農家が果実を生産すると、収穫時に輸出業者のワーカーがトラックでやってきて、「品質の良い」果実だけを購入していく。輸出業者は零細農家からの果実と自社栽培の果実を合わせて箱詰めにし、EUへ船や飛行機で輸出する。売れ残った果実は国内市場に販売するが、国内市場では違う種類のパイナップルが好まれ、価格が輸出向けに比べて低い。また、先進国においても同様の売れ残りのリスクは存在するが、途上国では加工市場が未発達なために、売れ残った果実を吸収できる市場が限定されているという事情が、このリスクをより深刻にしている。

Suzuki, Jarvis, and Sexton (2011)は、なぜ大規模農園と零細農家による生産の二つの生産組織が共存しているのかを考察し、零細農家の畑からの購入拒否率(収穫される果実の内、購入されなかった割合)が、パイナップルの質を一定にしても、EU市場の予期せぬ需要の変動に関連していることを示した。予期せぬ需要の量が大きい場合、拒否率は低く、輸出業者が零細農家の果実を需要変動のバッファーとして利用していることが明らかになった。つまり、同市場の零細農家にとって販売リスクは重要で、このリスクを吸収できるようなある程度裕福な零細農家しか、この市場に参加できていないことが明らかになった。

さらに、EUのパイナップル市場では、2000年代の初めに消費者が好むパイナップルの品種が急激に変化し、新品種MD2を作っていなかったガーナの生産者は大打撃を受けた。MD2は、多国籍企業が改良し、販売戦略によって世界的に広まったもので、従来の品種よりも甘く、小さく、より黄色で、安定した味である。この変化の直後にガーナの輸出量は激減し、多くの輸出業者も破産に追い込まれ、零細農家に対する支払いが滞り、多くの零細農家が同市場から撤退した。Suzuki (2013)では、この市場では、リスク選好がパイナップル栽培を続ける長さに影響を与えたこと、また、農家がパイナップル栽培を続ける期間の長さは、MD2ショック以降短くなっていることを定量的に示した。

一方で、タイもパイナップル生産で有名であるが、同国における販売リスクは比較的小さい。一番の大きな違いは、生産者のうち、零細農家が占める割合が95%と非常に高い点にある(Hayami et al. 1990, Anupunt et al. 2000)。パイナップル生産は、世界的にも大規模農園による栽培が主流である。これには、規模の経済が働くという点もあるが、保存期間が短いために販売と生産のコーディネーションが非常に重要となり、結果として輸出業者が自社栽培を行って中央管理をするほうが効率的であるという理由がある。南米やフィリピン、ハワイなどでも大規模農園で生産されている。なぜタイでは零細農家がこれほど大きな役割を担えるのだろうか?

重要な理由は、タイでは青果ではなく加工したパイナップルが主要な生産物になっている点である。缶詰生産では世界一で、その他にも国内にありとあらゆる関連産品が存在する。タイでは、コレクターと言われる小規模のパイナップル商人が、零細農家と加工市場をつなぐ重要な役割を担っている。彼らは、道路わきに小屋を設置し、農家が運搬してくる果実を購入する。価格はガソリンスタンドのように小屋の掲示板に表示されており、日によって、また大きさによって異なる。農家が果実を運んでくると、その場でグレードを選定し価格を決定するが、原則的にすべての果実を購入する。そのため、農家にとって売れ残りのリスクはほとんどなく、果実も数個程度の少量から販売することが可能であるため、栽培規模は求められない。これらのコレクターが道路わきに点々と店を構えているため、競争的である。

コレクターがすべての果実を購入するのは、どんな果実にも販売先が確立しているからである。コレクターは、質の良い果実は青果市場や缶詰工場に送り、質の低いパイナップルはその場で皮をむき、パイナップルジュースやジャムなどの加工市場に流す。残った皮さえも、家畜用のエサに回す市場が確立しているため、パイナップルは無駄にされるところがない。コレクターがこのような販売方法を取れるのは、多種多様な加工市場が発達しているためである。もちろん、販売価格は青果市場に比べて低いが、販売リスクが低いことで多くの零細農家が参入できる構造になっている。このように、加工市場を発展させることで、グローバル市場に参入する農家の販売リスクの軽減も可能となる。

 

国際標準の順守:

グローバル市場に参画する際のもう一つの課題は、国際標準の順守の難しさである。ISO、GlobalGAP、HACCAP等、先進国市場で求められる標準は年々増加している。当初は食品の品質のみに関連する基準であったが、徐々に生産過程での労働者に対する社会倫理や環境への配慮なども基準の対象となっており、途上国の生産者にとっては、年々ハードルが上がっている。事例として、ベトナムとタイの輸出エビ養殖産業を取り上げる。

ベトナムでは、水産加工品は主要な輸出産品となっており、中でもエビの養殖産業は、近年急速に輸出額が上昇している。一方で、ベトナムの水産物は多くの先進国の港で検疫の結果輸入拒否される率も高い(UNIDO-IDE 2013)。この輸入拒否は、輸出業者にとって事前の検査費用やシップバックかかる輸送費等のコストがかかるだけでなく、エビ輸出国としての評判も落とすことになり、同産業の将来への影響も大きい。

このような悪影響は明らかであるのに、なぜ状況が改善されないのか。どこに問題が生じているのだろうか。ベトナムの水産物が日本の港で拒否された理由を詳しく見ると、「残留獣医用医薬品」がトップで、二番目に「細菌汚染」が挙げられる(UNIDO-IDE 2013)。「残留獣医用医薬品」の問題が発生しうるのは、エビのサプライチェーンのなかでも生産の段階である。つまり、生産の段階で何らかの投入材によりエビの体内に医薬品が入り、そのまま残留する。獣医用医薬品というのは多くの場合抗生物質で、実際にベトナムのエビ養殖農家の間では、エビの病気の予防と治療のために抗生剤が投入されている。また、農家が意識的に投入しなくても、使用しているエビのエサに抗生剤が含まれていることもある。つまり、輸入拒否率を改善するためには、養殖農家の生産方法を改善する必要がある。

ベトナムを含む多くのアジア各国では、エビの養殖を担うのは無数の零細農家であり、故に生産方法を一括管理することが非常に難しい。エビの養殖は、特に集約的な方法(高密度での養殖)で行うと、環境に負荷がかかることが歴史的にも明らかになっている。このため、国際社会では持続可能なエビ養殖農法についてのガイドラインが長年議論されてきた。1995年にFAOはCode of Conduct for Responsible Fisheriesを発行し、その後世界銀行、Network of Aquaculture Centres in Asia-Pacific (NACA)、WWF、FAOなどの機関の主導で、エビ養殖に関わるあらゆるステークホルダーが参画の下、2006年にInternational Principles for Responsible Shrimp Farmingが発行された。ベトナムでは、NACA、農業農村開発省、デンマークの援助実施機関と共に、エビ養殖のBetter Management Practices (BMPs)を定め、推奨してきた。しかし、このような政府の取り組みにも関わらず、BMPが実際には順守されていないことは、フィールド調査の結果からも、輸入拒否率を見ても明らかである。Suzuki and Nam (2017)は、状況を探るため、ベトナム南部の農家サンプルを用いて、BMP導入の要因を分析した。その結果、養殖組合への参加や過去の研修受講の経験はBMP導入に正の関係を持つが、兄弟がエビ農家であるという変数は負の関係を示し、家族から養殖方法を学ぶ農家はより伝統的で、国際的に推奨されている方法を導入していないことが示された。さらに、情報源の数や種類がBMP導入に関係していることも分かった。また、BMPの導入がエビの病気発生率に影響するかを分析したところ、予測通り、BMPを導入すると病気が起こりにくくなることが分かった。さらに導入したBMPの数が多いほど、病気発生率を低くしていることが分かった。これらの結果は、BMP導入の効果をさらに裏付けるものである。

一方で、隣国のタイのエビ養殖産業は、ベトナムの状況と異なっている。前述の輸入拒否の理由を調べたUNIDO-IDE(2013)によると、タイの水産加工物の一番の拒否理由は「細菌汚染」であり、「残留獣医用医薬品」は6番目で、その件数も非常に少ない。もちろん「細菌汚染」も重要な問題であるが、細菌汚染は例えば輸出作業後に船の上でも起こりうるため、問題の発生場所は必ずしも生産段階ではない。日本の輸入業者のインタビューにおいても、現在のタイではエビ養殖に抗生剤を使うことは滅多にないことが明らかになっている。タイのエビ養殖を担うのは、ベトナム同様に零細農家である。なぜタイでは、無数の零細農家の間でも推奨される農法が導入されえたのだろうか?

実は、タイにおいても、以前は抗生剤を生産過程で使うことが主流であったが、残留農薬の高さに輸入拒否が続き、一時タイの輸出量が激減した。この苦い経験から、タイの産業は官民一体となってその養殖方法を改善する決意をし、取り組んできた。政府と民間セクターが果たした重要な役割を以下で述べる。

まず政府は、①公的な検査機関へのアクセスを容易にし、②トレーサビリティを可能にするための書類の提出を課し、③国内で認証を確立し、④無作為なモニタリングを実施した(Suzuki and Nam 2016)。特に、①と②は非常に重要な取り組みである。残留農薬は、検査を行わないと目に見えない。しかし、民間の検査機関に委託すると費用がかさむため、零細農家にとっては現実的ではない。そのため、政府は公的なサービスを無料で提供している。また、エビ養殖を行うためには、まず政府でエビ農家として登録し、IDを受ける必要がある。さらに、Movement Documentと言われる書類の提出を必須化し、サプライチェーンにおけるすべての過程で売り手と買い手がこの書類にサインをし、エビの流れとともにこの書類を送り、最後に政府に提出する必要がある。これらは、零細農家の農法を管理するのに非常に効果的だったと思われる。

民間セクターもこの変化の一翼を担った。タイのエビ養殖産業で非常に特徴的なのは、ステークホルダー間での情報交換が非常に活発なことである。中央にはエビ養殖農家がメンバーとなっているThailand Shrimp Associationがあり、各県にはその下部組織(Shrimp clubと呼ばれる)が存在する。また、加工企業や輸出企業はThailand Frozen Foods Associationのメンバーとして登録する義務がある。各県のShrimp clubでは、定期的に情報共有のためのセミナーを開き、専門家や政府役人、民間企業からの発表に加えて、エビ農家自身が試した画期的な養殖方法などの発表も行うという。さらに重要なのが、タイのエビ養殖農家は、FacebookやLINEなどのSNSでネットワークを形成しており、日常的に情報共有を行っている。交換される情報は、価格や天候情報、病気の予防方法、病気の対処法、投入材の種類や養殖池の準備方法等々、エビ養殖にまつわるあらゆる内容である。このネットワークには、水産学を専門とする学術界の専門家も含まれており、間違った情報を正す機能も備わっている。2017年4月現在、Facebookのメンバーは18,000人にも上る。エビは天候や生育環境に非常に敏感なため、養殖はとても難しいとされるが、SNSで写真と共にタイムリーな情報を交換することで、農家同士で学習効果を高めているようである。

これらの各セクター一丸となった取り組みが功を奏し、タイでは零細農家が養殖方法を刷新することに成功したといえる。無数の零細農家の農法を中央で管理することは難しいが、タイの事例はそれも可能であることを示しており、他国にも重要なヒントを提供している。

 

本稿では販売リスクと国際標準の順守という、グローバル市場にアクセスする際の課題を二つ取り上げ、それぞれ事例に基づき各国の現状や取り組みを紹介した。持続的にグローバル市場からの恩恵を受けるには、これらの課題を国内で解決していく必要がある。外需を取り込むために安い賃金だけに頼っていると、賃金が上昇した際にすぐに需要も他国に流れていくため、持続的ではない。両産業におけるタイの取り組みは、他の国でも応用可能であり、参考になるのではないだろうか。本稿ではグローバル市場が提示する多くの課題のうちのほんの二つを紹介したが、今後その他の課題を分析していくことが望まれる。

 

以上