代表者挨拶

    本プロジェクトで取り上げる新興国経済の歴史は、これまでどのように理解されてきたのでしょうか。近年の力強い成長をふまえて考えると、従来は後進性、受動性を強調する方向にバイアスがかかっていたように思います。歴史理解が「後進国」、つまり先進国を前提し、その基準で後進国の発展の程度や方向を測る「先進国目線」だったということです。雁行的発展論には、当初からこの批判がありました。また、「キャッチアップ型工業化」論は、国内の工業化過程を政治と経済の相互作用を考慮して説明しようとする優れた研究を生んできましたが、初期条件や国際環境をしばしば所与とする傾向がありました。植民地化、半植民地化の歴史を持つ国では、独立以前から現在にいたる長期の経済発展径路が存在したのかどうさえ、はっきりとは認識されていないことも少なくありません。国際環境についても、先進国・覇権国の規定性を所与とし、いわば受け身の立場で理解することが多かったと思います。

    しかし、現在のアジアの新興国のなかには、先進国よりも成長率が高く、地域経済や、場合によっては世界経済を主導しかねない勢いを持つ国もあります。一方では、資源・エネルギーの消費者として、貧しい資源供給国の購買力や発展径路を規定するほどの力を持ち始めていると同時に、競争や需要の性格をとおして、先進国の先端技術の発展方向にも影響を与える存在になっているのです。さらに、新興国は、グローバル化、地球環境問題、少子高齢化など、先進国が経験したことがないスピードで次々と生じる、新しい問題に直面しています。

    このような、さまざまな国際的連関や新しい問題を考えると、多様な新興国の発展径路を先進国目線で理解しようとするのではなく、むしろ「新興国目線」からの国際比較や、それに基づいた世界経済理解を試みる必要があるように思われます。本班は、経済史研究をつうじて、こうした課題に貢献したいと思っています。