研究目的

   近年の経済史研究の一つの潮流であるグローバル経済史は、東アジアの経済発展を背景に、少なくとも数世紀にわたる長期の視野で世界の諸地域の経済発展径路を理解しようとしてきた。例えば、東アジアには、西洋型発展径路(科学革命から産業革命を経て形成された、資本・資源集約型径路)とは異なる発展径路(労働集約型・資源節約型径路)が存在したと考えることもできる。また、東南アジア、南アジア、中東、アフリカ、ラテンアメリカなどの各地域にも、同じように固有の発展径路があったかどうかも検討の対象とされている。例えば南アジアでは、数世紀にわたって、世界人口の2割程度の膨大な人口が維持されてきたが、この人口扶養力は、イギリスによる植民地化、独立という政治的変化を超えて、継続してきた。そこには熱帯・亜熱帯の環境に対応した技術や制度の長期にわたる発展があったように思われる。

   このように、現在の新興国の発展径路を理解するには、西ヨーロッパで生まれた古典派経済学が想定したように、生産要素を資本、土地、労働に集約するのではなく、エネルギーや水、生物多様性といった、地域の環境にとって重要な要素を十分考慮し、環境、技術、制度がダイナミックな相互作用を生んできたことが明らかになるような、複数経済発展径路論を構築する必要があると考えられる。5年間で行いたいことは、新興国の経験をその内的な発展の論理に立ち入って比較考察し、事実から組み立てるという歴史学の手法に基づいて新しい比較の視点を提出することであり、それによって径路依存性から見た新興国の経済発展の特徴を浮き彫りにすることである。本班では、欧米や日本の経験との比較を念頭に置きつつ、主として中国、東南アジア、南アジアの経済発展径路の国際比較を行う。