楠田 丘(くすだ きゅう)

〔日本賃金研究センター代表幹事、社会経済生産性本部理事〕

インタヴュー期間 2002年2月19日〜2002年9月2日(全8回)
インタヴュー対象者 楠田丘(日本賃金研究センター代表幹事・社会経済生産性本部理事)、武内崇夫(日本賃金研究センター主任アドバイザー)、湯沢和夫(社会経済生産性本部雇用システム研究センター主幹)、加藤孝(社会経済生産性本部雇用システム研究センター課長)
インタヴュアー 石田光男、梅崎修
場所 政策研究プロジェクトセンター、日本賃金研究センター、社会経済生産性本部
キーワード 賃金白書、人事考課、職能給、職能資格制度、日本的成果主義
【インタヴュー内容】
日本における生産性運動の普及過程を明らかにするために行われた組織オーラルヒストリーの関連オーラルヒストリーの一つ。楠田丘氏のキャリア・ヒストリーを通じて戦後の日本の賃金・人事制度の歴史が明らかにされる。1923年に山口県で生まれた楠田氏は、大学で確率論を専攻した後、1948年に新設されたばかりの労働省に入省した。労働統計や『労働白書』の作成に携わり、賃金体系への関心を深めた。経済企画庁への異動、アジア経済研究所への出向を経て、1970年に退官し、日本賃金研究センターの設立に参画した。退官後は賃金コンサルタントとして企業への職能給の普及を進めるとともに、日本生産性本部で賃金管理士養成講座などを立ち上げた。現在でも、「日本型成果主義」の提唱など、日本の賃金制度の研究に取り組んでいる。
このような楠田氏のキャリア・ヒストリーは、まさに戦後日本の賃金・人事制度の歴史と重なり合っている。楠田氏が労働省や経済企画庁に籍を置いていた時期は、製造業を中心に職務給導入が図られる一方で、旧来の年功給・勤続給が賃金の主流を占めていた時期であった。このとき、楠田氏はGHQの講義を通して職務給の実態、仕事基準と人間基準の賃金の存在を知り、徐々に日本の風土に合う賃金体系論の必要性を実感するようになっていった。
そして、仕事基準の職務給を押しつけようとするGHQへの違和感、インドの労働事情調査を通して得た真の人間としての豊かさなどを背景として、楠田氏はヨーロッパの職種別・熟練度別賃金を日本的に修正した人間基準の賃金体系、すなわち職能給の理論を構築していった。理論構築の過程では、雑誌への連載やセミナー活動から得られる企業の事例の蓄積や企業からのフィードバックも大きな役割を果たしたという。
1970年、楠田氏は労働省を退官して職能給の普及に本格的に取り組みはじめ、ダイエーなどで課業の洗い出しから職能要件書の作成までに至る職務調査の具体的方法を実践していった。折柄、職務給の導入が失敗する一方、高学歴化や長期勤続化が年功・勤続給の維持を困難にしていたため、楠田氏の唱える職能給、職能資格制度は多くの企業で受容されていった。日本生産性本部の事業として、職能給や人事考課のセミナー活動、賃金管理士養成講座、ビデオ教材の制作なども行った。
文中でも触れられているように、楠田氏は、1990年代以降盛んに唱えられるようになった成果主義の単純な導入に反対し、職能資格制度を維持した日本的成果主義を唱えている。その意味では、楠田氏のキャリア・ヒストリーは未だ終わりを迎えていないが、本オーラルヒストリーでは、楠田氏の賃金論の思想的バックボーン、職能給や人事考課のセミナー活動、賃金管理士養成講座の実態、さらには楠田氏の賃金コンサルティングの具体的内容など部外者には知り得ない数々の事実が明らかにされている。ゆえに、本オーラルヒストリーは日本の賃金・人事制度の研究をする上で重要な資料と言えよう。なお、本オーラルヒストリーのエッセンス部分をまとめて『賃金とは何か―戦後日本の人事・賃金制度史』(中央経済社、2004年)と題し刊行されている。本オーラルヒストリーを読むにあたっては同書も参考となる。
【主要参考文献】
日本経営者団体連盟事務局編『賃金統計実務講座』(労働法令協会 1954年)
アジア経済研究所編『インドの労働事情』(アジア経済研究所 1960年)
日本経営者団体連盟編『日本における職務評価と職務給』(日本経営者団体連盟弘報部 1964年)
大河内一男他責任編集『現代労働問題講座』全7巻(有斐閣 1966〜1967年)
楠田丘『職務給・職能給導入の手引き:導入作業の手順と進め方』(産業労働調査所 1966年)
楠田丘・丸尾直美『所得政策』(日本生産性本部 1967年)
日本経営者団体連盟編『能力主義管理:その理論と実践』(日本経営者団体連盟弘報部 1969年)
楠田丘『職種別職能給導入の手引:技能度による職能資格別資金の提唱』(産業労働調査 1970年)
楠田丘『賃金管理の近代化:将来への展望と条件』(日本労働協会 1971年)
日経連職務分析センター編『新職能資格制度:設計と運用』(日本経営者団体連盟弘報部 1980年)
日本生産性本部編『生産性運動30年史』(日本生産性本部 1985年)
川西宏祐『電産型賃金の世界:その形成と歴史的意義』(早稲田大学出版部 1999年)
楠田丘『日本型成果主義:人事・賃金制度の枠組と設計』(生産性出版 2002年)
楠田丘『賃金とは何か−戦後日本の人事・賃金制度史』(中央経済社 2004年)